12月25日午前0時30分、クリスマスイブの夕食の後片付けが終わったところだ。イタリアのクリスマスは家族や親戚と集まって過ごすという習わしだが、ピエルサンティ家は親しい友人と過ごすことが多い。なんだかんだ言って近頃では再婚者が多く、クリスマスやその他の大事な行事の時に、離婚した父親の家族か母親の家族のどちらに行くかで子供たちは選択を迫られる。彼らが結婚していると、自分の親の方に行くか姑の家に行くかでも迷うのに、さらに選ばなければならなくて結構面倒くさい。シルヴィオも再婚だしローマから離れているため、行事重視ではない我が家を親戚達は一番後回しにするというわけだ。 「いつでも都合のいい時に来てね」と親戚には触れ回ってある。
ここ2年、クリスマスイブは仲良しのマリーフランス・マッシモ夫妻と一緒に過ごすことにしているが、これがなかなか気楽で良い。何よりも食べ物の傾向が合うのが料理する私にとっては楽だ(うちの親戚はなんでも食べるほうだが)。
クリスマスイブにはイタリアでは魚を食べることになっているので、魚屋でホウボウの切り身とイワシを買っておく。私は正直に言って、イタリア料理でよくでてくる「魚をジャガイモとイタリアンパセリとオリーブオイルでオーブン焼きにする」方法がたいして好きではないので、この間インド人から習ったマウリシャス島の料理を作ることにした。イタリア料理とはまったく関係のないマウリシャス料理とは、つまりカレーを基盤にした、私にとっては親しみやすい料理である。トマトソースに入れる香草はローズマリーでもイタリアンパセリでもない、ネギである。カレー粉やクミンなどを少し混ぜて、油で揚げた魚に和えて食べるのだ。
イワシはオイル漬けにして前菜にし、パスタはいつものブロッコリーとアンチョビのパスタを祭日風に変えることにする。祭日といえば生パスタなので、このブロッコリーのパスタには細めのキタッラを和えてみることにする。キタッラはギターのように弦をはってある木箱に伸ばしたパスタを置き、めん棒で押し付けて弦を使って麺を切り落とすもので、麺の断面が独特だ。フェットチーネとは異なる歯ごたえやソースとの絡みを楽しむ。
食事が始まったらマリーフランスの持ってきてくれたフォアグラを、トーストしたパンにつけて食べ始める。1999年物のSablettesのSauternesという甘口ワイン(今日はごちそうです)を飲みながら舌鼓をうっていると、マッシモの携帯がジャジャーンと鳴る。 「いよー、今テーブルいっぱいのポレンタを食べている最中だよ」 「いやー、こっちは今フォアグラとSauternesで始まったところだよ」
食べている最中、携帯が3回鳴って、それぞれの親戚が今何を食べているのかいちいち電話しまくっているらしい。ヨーロッパ中のイブの夕食が頭を駆け巡る。クリスマスといえば“ジングルベル”と“きっと君はこない”が聞こえてこないと実感が沸かなくなっていたが、魚の夕食の後、夜遅くに教会の鐘が鳴って荘厳なミサが始まり、テレビで法王の演説を聞いたらイタリアのクリスマスなのだ。
*食べ始めたらすっかり写真を撮るのを忘れてしまいました。
今日子 |