外は大雨で、森の木がごうごうと鳴ってまるで海にいるような気分だ。こんな天気が一週間も続いている。
私はというと、この4、5日パンペパートを作りまくった。全部で160個。もう1年くらいはチョコレートを見たくないと思った(2日後にはもとに戻ったが)。作っている間中、頭や衣服にチョコレートの匂いがついてとれなくなり、胸焼けがして悩まされた。もちろんお風呂に入るけれど、何しろ自宅で一日中作っているから休憩のたびにお風呂に入るわけにもいかない。
そこで思い出したのが、イタリアで他人の家に行くと、皆家の中の料理の匂いを隠したがるということだ。私が子供の頃育った家は、父の会社の寮で、台所と寝室と子供部屋がつながっていた。台所の匂いは家中に満ちていて、外から帰ってくるとご飯の匂いで幸せな気分になったものだ。
それを、イタリア人やフランス人の友人は、「ごめんなさい、臭いでしょ」と言って気を配る。例えば魚の生臭い匂いが家中に残っているというのならまだ話はわかるが、そうではないらしい。嫌な匂いの代表の中にカリフラワーも入っている。「カリフラワーを蒸している時の家の匂いはたまらない」と皆口を揃えて言うのだ。
「カリフラワーなんてとってもいい匂いじゃない、私は好きだけど」と答えると、日本人は人当たりがいいから、皆私が謙遜していると思うらしい。これも日本の狭い住宅事情のせいなのだろうかとふと思うが、あながちそれだけとも言えない。
「“私は料理は一切しないわ。恋人を家に招待する時に、もし自分に食べ物の匂いがついていたら最悪じゃない”と、かの有名なブリジット・バルドーは言ったのだと、フランス人のおばちゃんはいう。そういわれると、私は今回のチョコレートをはじめ、友人を招待する時はいつも食べ物の匂いが染み付いたままだ。ある時はカレー、ある時はゴルゴンゾーラ、ある時はしょう油の匂いを・・・。料理を早めに済ませ、お客が到着する前にシャワーでも浴びておけばいいのだろうが、私の性格から言って、いつも押せ押せでそんな余裕はまずない。まあ、ブリジット・バルドーみたいなきれいな人が「料理はしないわ」と言うのなら「ああそうですか」と思うけれど、私の場合はやはりその匂いをベッドに持ち込まなければよしとしようというふうに決めている。
今日子 |